酒と記憶と秘密
今までの人生で、お酒を呑みすぎて記憶をなくす、という経験をしたことがない。
一緒に呑んでいた相手から翌日に、「昨日の記憶がないんですけど、なんか変なことしませんでしたか?」と聞かれることがよくあるが、あれはどういう気持ちなのだろう。
そしてどう答えるのが正解なのだろう。
人には誰にも言いたくない秘密がある。
この人にはこういうことをやっちゃダメだという自制心がある。
それがお酒の力で、ほんの少し心の隙間が見えてしまったとき。
私は基本的にはそのままそっとしておくようにしている。
心の扉を無理に開けることも閉めることもしない。
私が黙っていれば、秘密の部屋は秘密のままで保たれる。
ただ、ちょっとだけ「この人はこういう部屋も持っているのね」と内心ニヤニヤさせてもらっている。
実はそれが、誰かとべろべろになるまで呑むときの、最高の酒の肴なのかもしれない。